Eyerising(アイライジング)近視治療用機器 概要書
会社 | Eyerising International Pty Ltd Suite 2.05, 9-11 Claremont St. South Yarra, Victoria 3141 Australia |
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概要・仕様
機器の概要
オーストラリア・Brien Holden Vision InstituteのBrien A. Holden氏らは、2000年時点で全世界の約14億人(22.9%)が近視、うち1億6000万人が強度近視と推測し、今後さらに増加し、2050年には全世界で約50億人(49.8%)、約10憶人が強度近視になると予想している。
小児に対する近視治療法としては、眼鏡、コンタクトレンズ、オルソケラトロジー、アトロピン点眼がある。
Eyerising Internationalは、3~16歳の小児の近視の進行を抑制するために、世界初となる家庭用の近視治療用機器 “Eyerising近視治療用機器” (以下、「本機器」)を開発した。
本機器より放射される650nmの低レベルの単一波長の赤色光を1回につき3分間、1日2回(治療間隔4時間以上)、週5日間(週10回まで)眼に当てることで、眼軸長の伸展を緩やかにし、近視の進行を抑制することができる。
その有効率は、治療遵守率75%以上の場合87.7%と高い。本機器は、薬や専用のレンズも使わず、非侵襲的で、現在までに重大な副作用は報告されていない。
機器の概要
本機器は主に治療モジュールである筐体、アイマスク、瞳孔間距離調整ノブ、ハンドホイールロック、タッチスクリーン、制御回路、電気インターフェイスから構成されている。(図1)
重量 | 2.1kg |
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サイズ | 長さ34×幅18×高さ32cm |
赤色光 |
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動作条件 |
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耐用年数 |
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* 治療中のアイマスク部におけるレーザー出力密度は2.32mW/cm2である。
通常瞳孔径は、明所で2~4mm、暗所で4~8mmで、瞳孔を通過する光パワーは以下のように0.2915mWとなり、IEC60825-1:2014のクラス1のMPE(最大許容露光量、通常の環境下で、人体(眼または皮膚)に照射しても有害な影響を与えることがないレーザー放射のレベル)の0.39mW未満である。
2.32mW/cm2 × (0.4cm/2)2 × π = 0.2915mW
適応・禁忌・副作用
適応
- 年齢3~16歳の近視と診断された小児
禁忌
- 斜視
- どちらかの眼に視機能異常がある
- どちらかの眼に眼球異常*、またはその他の全身的な異常がある
*眼球異常:未熟児網膜症、網膜剥離、若年性黄斑変性症、網膜芽細胞腫、小児ぶどう膜炎などの網膜疾患がある場合 - 遺伝性網脈絡膜疾患の家族歴がある
- 瞳孔散大(散瞳)の小児、またはアトロピン、シクロペントラート、トロピカミドなどの瞳孔散大を引き起こす可能性のある薬剤を投与した後(アトロピンは治療の最低2週前に中止すること)
副作用
- 短期的な副作用として、治療後に一時的にまぶしさ、閃光盲、残像が生じることがあります。通常、治療後に3分間程度目を閉じることでこれらの症状は消失します。
また、治療回数を重ねることで症状の持続時間は短くなると言われています。まぶしさ、閃光盲、残像などの症状が5分を超えて続くことが3回以上あった場合は、本デバイスの使用を中止し、処方医の指示に従ってください。 - 治療中に光過敏症、眼刺激、眼熱傷などの不快感が生じた場合は、本デバイスの使用を中止し、眼科医に相談してください。
- 実臨床下において、本治療によって網膜障害と視力低下をきたした症例の報告があります。
光治療に対する過敏症がある場合に起こる稀な有害事象と推察されており、治療中止数か月後に症状が回復したと報告されています。
自覚症状として『治療後に5分以上持続するまぶしさや残像』の訴えが挙げられていますので、治療後に同様の症状が3回以上あった場合は、本デバイスの使用を中止し、処方医の指示に従ってください。
治療方法
- コンタクトレンズまたは眼鏡を使用している場合は、外す。
- 顔をアイマスクに接触させて、赤色光をまっすぐ見る。
- 瞳孔間距離調整ノブを使用して赤色光の発光点が一つになるように合わせる。(図2)
- 1回の治療時間は3分間で、治療中はできる限り眼をあけて赤色光を見る。
- 1日の治療回数は2回で、1回目と2回目の治療間隔は4時間以上空ける。
- 1週の治療日数は5日間、最大許容治療回数は連続7日間で10回とする。
- 使用前に、取扱説明書をよく読む。
- 近視と診断された小児のみ治療を行う。
- アトロピンは最低2週前に中止する。
- ひとりで使用することができない年齢の小児には、保護者の監督・補助のもとで行う。
- 色覚異常の小児は、保護者の監督のもとで行う。
- 眼の炎症や腫れなどの疾患がある場合は、治療を中止する。
- 屋外や暗い部屋で治療を行わない。
- 携帯や無線通信などの電波を発する通信機器により、影響を受ける恐れがある。
- 磁気、電磁波、静電気放電、圧力または圧力の変動、加速器、熱源または引火源となるものの近くで使用しない。
- 短期的な副作用として、まぶしさ、閃光盲、残像が生じることがある。残像がある場合は、3分間目を閉じることを推奨する。5分以上症状が続くことが3回以上確認された場合は、本デバイスの使用を中止し、眼科医に相談すること。
- 治療中に光過敏症、眼刺激、眼熱傷などの不快感が生じた場合は、使用を中止し、眼科医に相談すること。
臨床経験
- 1.多施設ランダム化比較試験
- 調節麻痺下等価球面度数-1.00~-5.00D、乱視2.5D以下、不同視1.50D以下、矯正視力1.0以上の条件を満たす8~13歳の近視小児264例を対象とし、本機器で12か月治療する群(RLRL群)と治療を行わない群(コントロール群)に無作為に分け、5施設でランダム化比較試験を行った。
眼軸長の伸展は、RLRL群0.13mmに対し、コントロール群0.38mm、調節麻痺下等価球面度数の変化量は、RLRL群-0.20Dに対し、コントロール群-0.79Dで、いずれも有意差を認めた(p<0.001、<0.001)。(図3、図4)
RLRL群の治療遵守率を<50%、50~75%、>75%に分けた結果、RLRL治療遵守率が高いほど眼軸長、調節麻痺下等価球面度数ともに変化量が少なく、治療遵守率>75%では調節麻痺下等価球面度数の変化量の有効率(コントロール群とRLRL群の変化量の差/コントロール群の変化量)が87.7%であった。(表1、図5)<表1> RLRL群の治療遵守率に対する変化および有効率 RLRL群の治療遵守率 平均±SD 有効率(%) 眼軸長
(mm)全例 0.116±0.225 69.4 <50% 0.210±0.252 44.6 50~75% 0.117±0.223 69.1 >75% 0.088±0.215 76.8 調節麻痺下等価球面度数
(D)全例 -0.184±0.543 76.6 <50% -0.459±0.674 41.7 50~75% -0.212±0.493 73.1 >75% -0.097±0.517 87.7
- 2.2年の有効性および安全性
- 1年の多施設ランダム化試験を行った上記近視症例を対象として、RLRL群で2年目も治療を継続したRLRL-RLRL群、RLRL群で2年目は治療を中止したRLRL-SVS群、治療を行っていなかったコントロール群で2年目に治療を行ったSVS-RLRL群、コントロール群で2年目も治療を行わなかったSVS-SVS群の4群に分けた。その結果を表2、図6、図7に示す。
RLRL-RLRL群の2年間の眼軸長および調節麻痺下等価球面度数の変化量は、他の群に比べ有意に少なく(p<0.001、0.003)、SVS-SVS群に比べいずれも75.0%の有効率を示した。RLRL-SVS群では、治療を中止することにより、変化量にリバウンドが見られた。2年間の経過観察期間中、副作用または重篤な有害事象は報告されなかった。また、光干渉断層計(OCT)で撮影した眼底像は、治療による構造的異常は何ら認められなかった。<表2> 4群の眼軸長および調節麻痺下等価球面度数の変化 RLRL-RLRL群 RLRL-SVS群 SVS-RLRL群 SVS-SVS群 眼軸長
(mm)ベースライン
~12か月0.04±0.25 0.08±0.20 0.39±0.20 0.38±0.19 12か月~24か月 0.12±0.16 0.42±0.20 0.05±0.24 0.28±0.14 ベースライン
~24か月0.16±0.37 0.50±0.28 0.44±0.37 0.64±0.29 p値* 0.223 <0.001 0.002 <0.001 等価球面度数
(D)ベースライン
~12か月-0.11±0.58 -0.19±0.50 -0.97±0.42 -0.71±0.42 12か月~24か月 -0.20±0.56 -0.91±0.48 -0.09±0.55 -0.54±0.39 ベースライン
~24か月-0.31±0.79 -1.07±0.69 -0.96±0.70 -1.24±0.63 p値* 0.746 <0.001 0.014 0.074 *:ベースライン~12か月と12か月~24か月の比較
- 3.脈絡膜厚の変化
- 多施設ランダム化比較試験の近視小児120例(1年間治療をしたRLRL群60例、コントロールのSVS群60例)を対象に、脈絡膜厚を波長掃引型OCT(SS-OCT)で測定し、その変化を比較した。(表3、図8)
RLRL群は、12か月にわたって脈絡膜の持続的肥厚が認められた。<表3> 脈絡膜厚、眼軸長、調節麻痺下等価球面度数の変化 期間 RLRL群 SVS群 p値 平均脈絡膜厚
(μm)1か月 14.755 -1.111 <0.001 3か月 5.286 -8.212 0.003 6か月 4.543 -10.190 0.503 12か月 9.089 -10.407 <0.001 中心脈絡膜厚
(μm)1か月 17.957 -2.888 <0.001 3か月 6.594 -11.109 0.001 6か月 -1.391 -11.868 1.000 12か月 7.342 -12.090 <0.001 眼軸長
(mm)1か月 -0.048 0.013 0.341 3か月 -0.013 0.099 <0.001 6か月 0.063 0.227 <0.001 12か月 0.122 0.379 <0.001 等価球面度数
(D)1か月 0.056 -0.008 1.000 3か月 -0.013 -0.199 0.117 6か月 -0.096 -0.399 0.002 12か月 -0.224 -0.799 <0.001
- 4.二重盲検ランダム化シャム比較試験
- 7~12歳の近視小児112例を対象に、本機器(RLRL群)と出力10%のシャム機器(シャムコントロール群)を用いて6か月の二重盲検ランダム化試験を行った。
ベースラインと6か月後の変化量の結果を表4に示す。RLRL群は10%出力のシャムコントロール群に比べ、有意に近視の進行を抑制し、有害事象は報告されなかった。<表4> 調節麻痺下等価球面度数と眼軸長の変化量 RLRL群 シャムコントロール群 p値 等価球面度数(D) 0.06±0.30 -0.11±0.3 0.003 眼軸長(mm) 0.02±0.11 0.13±0.10 <0.001
承認状況および使用状況
本機器は、30か国以上で医療機器として許可されており、全世界ですでに15万人以上の小児に使用されている。主なものを以下に示す。
BSIノーティフィボディ | ISO13485 2016の適合性認証取得 | |
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ヨーロッパ | CEマーク | クラスⅡa |
イギリス | MHRA(医薬品・衣料製品規制庁) | クラスⅡa |
ニュージーランド | Medsafe(医薬品医療機器安全当局) | クラスⅡa |
オーストラリア | TGA(保健省薬品・医薬品行政局) | クラスⅡa |
中国 | CFDA(中国食品薬品監督管理総局) | クラスⅡ |
マレーシア | MDA(医療機器庁) | クラスB |
参考文献
- Holden BA, et al. Global Prevalence of Myopia and High Myopia and Temporal Trends from 2000 through 2050. Ophthalmology 2016;123:1036-1042
- Jiang, Y, et al. Effect of repeated low-level red-light therapy for myopia control in children: a multicenter randomized controlled trial. Ophthalmology 2022;129:509-519.
- Xiong, R, et al. Sustained and rebound effect of repeated low‐level red‐light therapy on myopia control: A 2‐year post‐trial follow‐up study. Clin Exp Ophthalmol. 2022;50:1013-1024.
- Xiong, R, et al. Longitudinal changes and predictive value of choroidal thickness for myopia control after repeated low-level red-light therapy. Ophthalmology 2023;130:286-296.
- Dong J, et al. Myopia control effect of repeated low-level red-light therapy in Chinese children. A randomized, double-blind, controlled clinical trial. Ophthalmology 2023;130:198-204.